『アメリカン・サイコ』クリスチャン・ベール来日記者会見
●2001年1月24日(水)ウェスティンホテル東京
●出席者:クリスチャン・ベール


| WERDE OFFICE | CINEMA WERDE |
【挨拶】

■クリスチャン・ベール: こんにちは(日本語)。本日は、こんなに沢山の方に来ていただきありがたく嬉しく思っております。東京へは15歳の時に来ましてそれ以来になるんですけれども、この『アメリカン・サイコ』を楽しんでいただければと思っております。

【質疑応答】

●司会者: この作品のオファーが来ました時にどのように感じられましたでしょうか?

■(クリスチャン・ベール): 今回この作品は、最初に「この役をやってください」とオファーが来たわけではなくて、監督でライターのメアリー・ハロンさんと何度か電話でお話をして、それからミーティングをもってそこから発展していきました。それで、前作の『ベルベット・ゴールドマイン』の撮影中に、ちょうどその作品のプロデューサーが、メアリー・ハロン監督の前作『I SHOT ANDY WARHOL』をプロデュースされた方でもありまして、そんな縁でスクリプトを読ませていただきました。実は、原作は読んでいなかったんですね。しかし、その評判というのは聞いておりまして、ある程度こういう作品だろうというイメージが自分の中であったんですけれども、脚本を読んだらそれがまったく違ったので非常に驚きました。変な話ですが、原作のイメージ、知り合いなどから聞いた部分では、スプラッターなシリアルキラーものという感じでしたから。

アメリカでは、皆さんもご存じかと思いますが、かなり物議を醸しまして、やはり、批評家などもバイオレンスという部分を取り出しまして、残念ながらこの本が持っている風刺的な部分だとか、知性ということを無視した扱いだったんです。それで、この脚本を読みましたところ、もちろん純然たるコメディではないんですけれども、結構笑えるところがありまして、主人公のパトリック・ベイトマンの行動の突飛さに、クスっと笑ってしまうところが非常に多くて。でも、この脚本は、そういうつもりで書いたんではないんだろうなという思いがありまして、電話で話した時に、「今まで読んだ脚本の中でもっとも面白かった。笑わせてくれた。だから、多分それは貴女の意図するところではないと思うから、これ以上の話は私とはやめたほうがいいのでは?」というふうに言ったところ、監督が、「そうではなくて、我々が狙っているのは、正に風刺的な笑える部分なんです」と言ったんです。その脚本に織り込まれていたウィット、如何に人間の行動がコメディになりうるかという部分。そういう部分からすると、「ドリアングレイの肖像」の100年後という考え方を僕はしているんですけれども。個人的にはこのキャラクターは、以前もこれからも演じないキャクラクターだと思うんです。映画の中でも特異なキャラクターをしていますし、それまで、時代劇なども含めて良いキャラクター、ナイスガイを演じてきましたので、そういう意味でも、今回は直ぐにやりたいなぁという気持ちになりました。あと、もうひとつこの役をやった理由は、まわりに「この役をやったらお前のキャリアは終わりだ」と言った人が多くいたからです。


●司会者: このパトリック・ベイトマンという役は、演じる時、どのような点に気を付けられましたか?


■(クリスチャン・ベール): このパトリック・ベイトマンというキャクラクターを、原作を読んだ人がまず誤解したのは、これはただのシリアルキラーではないかと思ったと思うんです。自分にとっては、この男が殺人鬼であったという要素はどうでもいいことで、自分にとっては'80年代の「欲こそ全て」 ― つまり、27歳でお金もあって、宇宙の覇者のようになんでも出来てしまう人々の極端な象徴としかとらえていなかったんですね。この話は、その時代を写し取った話だと思っております。そういった意味でも、キャラクターが殺人鬼であるということよりも、欲とか外見が全てだったこの時代の雰囲気を掴むことが重要だと思い、役作りをしました。また、この原作者は、この殺人鬼像をつくるにあたって、過去の実際にいた殺人鬼たちのいろいろなイメージを張り合わせてカリカチュアを作っているんです。そういった意味では、殺人鬼たちの深い心理的なリサーチは必要ないと思いしませんでした。それよりむしろ肉体的な部分。この人物は、自分のルックスに最大の関心を置いている。肉体作りにもの凄い準備をかけました。外見はごまかすことができないので。

◆質問: 映画の中ではのってやってらっしゃったと思うんですが、これは自然体ですか、演技ですか。

■(クリスチャン・ベール): このパトリック・ベイトマンというキャクラクターは、今まで演じたキャラクターの中で最も楽しかった。まわりの人は、この映画の撮影後もパトリック・ベイトマンのダークな面が残るんではないかと心配していたようですが、実際はそんなことは全くなかったんです。作品自体もリアリズムを追求するというものではなくて、どちらかと言えばハイパー・リアリティー、誇張されたリアリティーという作り方をしましたし、みんな表面的なキャラクターなんです。実際にベイトマンは、毎日を生きていくにあたって、デザイナースーツに身を包み名刺を作って人に見せびらかしたり…。(彼にとって)そういったことは全部パフォーマンスなんです。パフォーマンスということは、役者さんがやるということと全く同じなんです。ですから、撮影が終わると、スイッチを切り換えるようにパトリック・ベイトマンからクリスチャン・ベールに直ぐに切り換えることが出来ました。他のキャラクターではそう簡単にはいかないので、その辺が面白かった。低予算映画で、スケジュールが厳しく、出ずっぱりではあったのですが、凄く楽しんで演じることができました。

◆質問: 外見的な役作りは具体的にどのようにされたのですか。


■(クリスチャン・ベール): 私は英国人ですので、ジムよりはパブに行きたいというお国柄で、ジム通いをしなければいけないということは、自分にとって非常に不自然なことだったんですね。でも、この役をやるにはジムに行かなければいけないと自分を説得しまして、ジムに通って身体を作りました。これは長い道のりでしたね。イギリス人というのは、普通の一般的なアメリカ人よりも身体を鍛えることに時間を割かない人種ですし、また、ベイトマンという人物は、アメリカ人の中でも特にこういったことに時間を費やすキャラクターでしたから。ご存じかもしれませんが、実は、作品が一時期ストップしたことがありまして、準備する時間が長くなったんですね。これは非常に良かった。実際の身体作りですが、全くつまらなかった。面白くありませんでした。絶対に、筋肉がちょっとでも増えると脳細胞は破壊されていくという…そう僕は確信しています。ジムに毎日3時間、それを6週間繰り返しました。その前に自分なりにもやって身体を作りましたけれども、ジムに行って筋トレをしながら、「今ごろはパブに行って、お昼を食べてビールの一杯でも飲んでいられるのに、なんでこんな事をしているのだろう」という気持ちに苛まれました。食事のほうは、エネルギーを蓄えなければいけないという事で一杯食べまして、撮影期間中は殆ど何も口にしませんでした。

◆質問: 私たち日本人は、“サイコ”と聞くと、アルフレッド・ヒッチコックの映画を思い出すんですが、リメイク版でもいいんですが、この映画と比べてどのように感じられますか。

■(クリスチャン・ベール): 最近のガス・ヴァン・サント監督のリメイクのほうは観てないんですけれども、ヒッチコック監督のほうはもちろん観ております。『アメリカン・サイコ』のベイトマンという人物の名前も似ているところもあるんですが、作品としては違うタイプの映画だと思います。ヒッチコックの『サイコ』はホラーということでも。

◆質問: 今回、クロエ・セヴィニーさんとか、ジャレッド・レトさんなど同年代の人たちとの共演をしていらっしゃいますが、同年代の方々との共演はどうでしたか。

■(クリスチャン・ベール): そうですね、クロエにしてもジャレッドにしてもハマリ役だったと思うんですが、クロエに関しては、この映画で唯一、観た方がいい人かもしれないという人物だったと思うんです。非常に柔らかい流れるような演技を見せてくれて、それに比べてベイトマンの方は、固い演技をしなければなりませんでしたのでね。役者さんとしても興味深いですし、才能もありますし、作品の選び方も良いと思うんです。ジャレッドも他の役者さんたちも、みんな自分の役をエンジョイして演技していたと思います。今回、パトリック・ベイトマンを演じるにあたって、アメリカン・アクセントで話さなければならなかったんですね。つまり、ジャレッドとかクロエとかと会話する時も、ベールでというよりも、パトリック・ベイトマンとして話しているような、そして、ジャレッドも役に入ったままで話していたんで、ベイトマンもポールという役もバカな役なので、2人が話していた時はだいぶ滑稽だったと思います。
(通訳者の表現をもとに採録。細部の言い回しなどには若干の修正あり)


『アメリカン・サイコ』は2001年GW、恵比寿ガーデンシネマにて公開。