『ホワット・ライズ・ビニース』ハリソン・フォード来日記者会見
●10月24日(火)ホテルオークラ別館オーチャードルームにて
●出席者:ハリソン・フォード
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【挨拶】

■ハリソン・フォード: また日本に、しかもこの映画を持って来られて大変幸せに思っております。これは大変良く出来た映画で、非常に誇りに思っております。本日は、記者の皆様方の活発なご質問をお待ちしております。どうもありがとうございました。

【質疑応答】

◆質問: 言える範囲でいいのですが、この役をやって難しかったところ、それから撮影中印象に残っているシーンなどお聞かせ願えませんでしょうか。

■(ハリソン・フォード): この映画が語り難いと言ってくださるのは非常に嬉しいんです。記者の皆さま方が、書く方が大変に難しいというのはよく分かりまして、その辺のところをご理解いただくのは嬉しいです。これは本当にアッと驚くことが多い映画なので、観客が楽しめるように皆さんにも書いていただき、ご理解いただいている点は、大変ありがたく思っております。それで、ご質問に答えますと、これは、本当に作るのが大変楽しい映画でした。それは、本当にゼメキス監督の映画を作る技術が素晴らしいということや、シナリオが綿密に計算されているということで、これは本当の意味で監督の映画、ロバート・ゼメキスの映画とも言えると思います。彼がストーリーの語り方、ビジュアルな要素を完全にコントロールして、素晴らしい映画を作ったわけです。だから、結果に関して私は、先ほども申しましたように誇りに思っております。ですから、難しかったことはあまりないんです。これだけシナリオがキッチリと書かれておりますと、俳優としては役作りが非常に簡単です。シナリオの中で人物表現がすでに出来ているのですから。そういう意味であまり難しい事はなかった。監督は最高で、共演者、ミシェル・ファイファーさんのようなプロの女優さんが相手ですと仕事はやりやすくて、本当に難しいことはなかった。自分としましては、今まで見せてきたハリソン・フォードのコインの裏側を見せるわけです。そういう意味でも、難しかったというより楽しかったという感想です。

◆質問: ふたつ質問があるのですが、ひとつは、この映画に出演を決められた理由には、やはり脚本の良さがあったのでしょうか。もうひとつは、ヒッチコックタッチの作品だと思うのですが、演じる時に、ヒッチコックのキャラクターを出していこうというような意識はご自分でもあったのかどうか。

■(ハリソン・フォード): 最初の質問ですが、やはり俳優が求めるのは、非常に綿密なシナリオとして書かれ、そして、アイディアが非常にクリアに描かれているシナリオで仕事をすることです。このシナリオは、ドラマとしてアイディアを展開させて、実によく書かれている。クラーク・グレッグの脚本が非常に優れていたというのが一番の理由です。それから、ヒッチコックのことですが、この映画のヒッチコック的なことは全部ビジュアル面のことで、それは監督の領域ですから、そういうことへは一切タッチしていない。ですから、この映画の為に、ヒッチコック作品を見直すとか手法を研究するといったことはありません。むしろ俳優としては、シナリオから理解するものから、計算し作っていくほうが正直な演技ができるわけで、人のものを介在させるのではなく、自分の解釈で作っていった方が正直なものが出来ると思います。ですから、ヒッチコックの映画を特に観たというようなことはありません。

◆質問: 年齢の話で失礼なんですが、世界的に『スターウォーズ』とか、『インディアナ・ジョーンズ』とか、ハリウッドのアクション・スターとして有名でいらっしゃいますけれども、今回、今年58歳になられたということで、特に、イメージチェンジ、方向転換をされたというようなことがあるのでしょうか。


■(ハリソン・フォード): まさしく、今おっしゃった映画は、アクション・フィルム、アドベンチャー・フィルムというようなものですけれども、私の経歴を振り返れば、必ずしもこういう映画ばかりやっていたわけではありません。いろんなバラエティに富んだものをやってきて、だからこそ今こうしてここにスターとしていられるわけです。私はいつも、一部のお客さんを楽しませようという意識はありません。あらゆる観客を楽しませたいというのが私のポリシーです。ですから、アクション映画だけではなく、いろんなタイプの作品を確実にやってきました。おそらく、この年齢に達して、アクション映画だけをやってきたのなら、今頃は失業しているでしょう。ですから、方向転換ということではなく、今までやって来たことを今後も続ける、ただそれだけです。

◆質問: ロバート・ゼメキス監督がいらした時にエピソードを話してくれて、水の中のシーンなんですが、ミシェル・ファイファーは水温を上げてくれと言って、あなたは下げてくれと言った。その時監督は、ミシェルさんの肩を持ったということですが、それ以外は、お互いにフェアーに撮影は進んだんでしょうか。

■(ハリソン・フォード): 監督が、私が冷たい水がいいと言い張ったというのは、なぜそういうのか私には分からない(笑)。私はいつも、ミシェルの意向を、彼女を立ててやっていたので、冷たい水がいいなんて言った覚えはありません(笑)。映画では濡れておりますけれども、現実のセットではいつも濡れているわけではなくて、ドライで撮影をしていました(会場、笑)。それから、相手役の女優さんのミシェル・ファイファーさんはこの役に適役だった。この複雑な夫婦を演じるにあたって、現実の夫婦のように、観客が直ぐに感情移入できるような、それぐらいの理解を持って感情的に観客を引き込んでいける演技を、彼女はとてもうまくやったと思います。これは、何かを欲しいということを拒絶される人間の複雑な心の中を描いていくわけで、結婚のような、何年も何年も続く男と女の関係の中で出来てくる感情の縺れみたいなものを、彼女は非常によく理解し描いてくれました。また、ストーリーテリングの動きも彼女はよく把握していて、それにあった演技を彼女はちゃんと計算してやってくださった。同じような賛辞を監督にも言いたい。彼は、ビジュアルにストーリーを語る名士でありますし、人間性、人間の行動をよく理解している監督です。ですから私は、この映画を作った経験は、ポジティブで前向きな楽しい経験だったというのが今の感想です。

◆質問: この映画の中で、主人公ノーマンはホンダのアコードに乗っていますけれども、あなたは10年前にホンダのコマーシャルにお出になった。だから今回も、ホンダに忠を尽くしてホンダを選ばれたのでしょうか。因みに、私はホンダの人間ではないのですが。


■(ハリソン・フォード): 私もホンダの人間じゃない(会場笑い)。

◆質問: 今回の『ホワット・ライズ・ビニース』もそうなんですが、ハリソンさんが出演された作品で、『インディアナ・ジョーンズ』とか『スターウォーズ』とか、扱っているストーリーの中に、見えない力、神秘的な力とかが描かれていたと思うのですが、人間の見えない力というのを信じていますか。もし信じているとしたら、人生の経験の中でそういう体験をされたことがありますか。

■(ハリソン・フォード): 私は、超自然的なものは信じておりません。私がそういう話になっていつも感じるのは、人間のサブコンシャスです。意識化のものがその人の経験に影響を与えるということはあると思います。ですから、この映画の中に“ゴースト”というものが出てきますけれども、観る人によっては、本当に「出た」と思う人もいるでしょうし、ミシェル・ファイファーが演じたキャラクターが意識化で作ったとも観られるわけです。彼女は過去に心理的なトラウマを背負っていて、彼を抑圧してしまう。それで、そういうものが影響して彼女が観てしまうというふうにこの映画は描かれていると思います。それが、この映画を構成上も面白くしているわけです。ですからこの映画は、超自然的なものを信じろと言っている映画ではない。過去を背負っている彼女の経験にあなたも参加して、一緒に体験しましょう。そういうことを言っている映画です。

◆質問: 先ほど、監督との仕事はとても前向きだったという話が出たのですが、今回のゼメキス監督をはじめ、ルーカス、スピルバーグ、ピーター・ウィアーやポランスキー監督など、超一流の監督と仕事をなさっていて、他の俳優から羨ましがられていると思うのですが、彼らから得たもの、学んだものは何でしょうか。

■(ハリソン・フォード): 今おっしゃった監督たちはそれぞれが素晴らしく、各々からいろいろなことを学びました。やはり、そういう素晴らしい監督と仕事をすると、深い経験となって後まで残っていくんです。それで、今おっしゃった監督たちは、それぞれ人生の見方が違うんです。お分かりの通り、ポランスキー監督とゼメキス監督では、人間の解釈、人生観が全く違うのです。ですから、そういういろいろな視点を持った人たちと仕事をしていくうちに得るものは、自分自身の人間性、人生に対する理解度が深まり、人生観が出来てくる。また、自分が演じるそのキャラクターを通じて違う人生を知り、違う経験をして、自分の見方が出来てくる。これがひとつのプラスではないでしょうか。特にこういうことを学びましたなどとは言えませんが、まとめて言わせてもらえば、偉大な映画作家から人間性の理解を学んだ。それから、映画作りの凄さを学んだ。そして、そういう方々と仕事をするのは楽しいのです。大監督の方々なので、ひとまとめには出来ませんが、敢えて言えばそういうことです。

◆質問: ジョン・ウー監督が、今一番仕事をしたいのはハリソン・フォードだとおっしゃっていたのですが、それについて何かあれば。

■(ハリソン・フォード): 本当に嬉しい言葉をいただいて光栄に思います。私の尊敬するフィルムメーカーですけれども、具体的に企画があるわけではない。今は違う企画に取りかかっていますし。もちろん、機会があれば仕事をしたいと思っております。


◆質問: 今回の役を受ける際に、共演者がミシェル・ファイファーさんでなければ何か変わっていたでしょうか? と申しますのは、監督さん、主演を選ぶ際に、最初からハリソンさんとミシェルさんにやって欲しいと言ってらっしゃったのですが、最初の時点から、ミシェル・ファイファーさんと共演というストーリーはあったのでしょうか? そして、その監督からの「是非ふたりに」というオファーが、決断されることに何か影響があったのでしょうか。

■(ハリソン・フォード): 別に「あなたしかいないよ」と言われたから引き受けたわけじゃない。私の大ヒットした映画も、ファースト・チョイスじゃないものがたくさんありますから。『インディアナ・ジョーンズ』は、最初、トム・セレックでしたから。ですから、ファースト・チョイスだったという理由ではなく、一番の理由は、人物がよく描かれ、ストーリーがよく書けていたからです。それから、今まで自分が見せていない面を見せるチャンスというところが、非常に興味深く思えた。それに、シナリオだけ観ても、凄い娯楽性の高い映画になる予感があったからです。その中において、お客様の側は、やはり、ハリソン・フォードの映画というと、ある種の期待がいつもあるんです。ああ、またカッコイイ映画だなと。今回はそれをひっくり返すわけです。今まで作ってきたハリソン・フォードのイメージを、逆に、驚きのサービスとして役立てるというところに惹かれたわけです。自分が選ばれたという時、その意図をすぐに理解しました。そして、すぐに「イエス」という答えをしたわけです。もちろん、ゼメキス監督やミシェル・ファイファーはいつも仕事をしたいと思っていた人たちですから、喜んで引き受けました。

◆質問: 先ほど、共演者のミシェル・ファイファーさんが非常にプロフェッショナルで仕事がやりやすかったと言っていらしたのですが、具体的に印象に残るエピソードはおありでしょうか。

■(ハリソン・フォード): 彼女が非常にプロフェッショナルで素晴らしいというのは、何かドラマチックなエピソードがあってそう言うのではなく、毎日の仕事の中からそういう印象を得るわけです。彼女は、自分のキャラクターの感情を理解して、協力的で、俳優としての技能をフルに生かして、お客様に感情を伝える役を翻訳していく。ストーリーテリングというものをちゃんと知っているということでプロと申し上げたわけで、何かエピソードをと言われてもそれは申し上げられません。

◆質問: 通常、ハリソン・フォードさんのようなビッグスターの方は、大抵、監督をされたり、ご自分のプロダクション・カンパニーを持たれて、製作または製作総指揮等に乗り出されるのが普通なのですが、ずっと俳優をやっていくというふうにかねがねおっしゃっていますが、それは変わらないのでしょうか。それから、先ほどのコメント等々お伺いしていると、穏やかで、悟りを開いてらっしゃるかのように見えるのですが、アップダウンが激しくてアドレナリン・ジャンキーになりやすいようなご職業で、非常に高揚感が溢れているような職業につかれていて、その冷静さを保つコツ、または、ポイントは何なんでしょうか。


■(ハリソン・フォード): 他への野心はノーです。私は、アクティングだけが好きでそれだけで十分です。これだけ長い間俳優をやっていると、不思議なもので、目(物を見る目)は育ってきているし、撮影前にプロダクションから長いシナリオをもらって、必要ならばリライトさせるとか、いろんな映画作りの要素の中に参加はいたします。ただ、主導権はとりませんけれども、プロダクションに参加はしております。でも、プロデューサーとかディレクターとか、そういうポジシヨンを背負ってしまいますと、それに時間が取られて他の事が出来なくなります。私は、俳優としての時間、そして、後の時間は貯めて、他のことでしたいことが一杯あるので。俳優は素晴らしい仕事です。今、この路線を変えても利益があることは何もない。この好きな仕事で十分なんです。

 もうひとつの質問ですが、分からないね〜(会場笑い)。そんなにいつも落ち着いているわけじゃないよ。多分、頭の回転が遅いからじゃないですか(会場笑い)。とにかく、これだけやっていますとそう滅多なことでは驚かないんです。確かに、長い俳優生活をしていて、周りではクレイジーなことも連発して起こってます。でも、振り回されたら自分というものを失ってしまいます。長い経験を通して、本当に大切なもの、クリアに周囲を見る能力は培われたと思います。他人が何を考えるかというのでは、とてもこの世界では生き残れない。他人の頭のことはほうっておいて、自分の仕事だけをきちんとすることです。自分の仕事はとても簡単です。物語をお客様に語る手伝いをする。これだけです。これは決して複雑なことでもないし、難しいことでもない。こういうふうに自分をちゃんと持つというのが、この世界でクレイジーにならない為のコツで、自分なりの長いキャリアで自分なりに納得したんだと思います。


◆質問: このノーマンという役を演じる上で、この役をどう解釈しましたか。そして、そんなノーマンを、ご自身はどう思いますか?

■(ハリソン・フォード): この人物を語り出しますとネタが割れてしまうので難しいですが、差し支えない程度に申しますと、ノーマンという男は、仕事に熱心な男です。野心もあります。多分、子供時代、父親との関係に葛藤がありまして、それでそのトラウマから、彼は、妻も含めて周囲をコントロールしようという支配力が強い男になったのかもしれません。ですけれども、外面的には、非常にノーマルな男ですし、チャーミングでもあるかもしれません。そういう男の「ホワット・ライズ・ビニース」ですね。水面の下に何があるのかというような、内面が出てくるのだと思います。

(通訳者の表現をもとに採録。細部の言い回しなどには若干の修正あり)


『ホワット・ライズ・ビニース』は2000年12月9日より日本劇場ほかにて公開。